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「富士五湖・田貫湖そして相模湖」夢酔紀行
                            1997年8月上旬・釣行
                          著者 樋口正博(Joe's)


 夜、一人静かにボートに乗って、風の音や雲のながれ、星の移動を見つめながら、 エサ打ちを繰り返す。

この夏、そんなナイターの釣りを体験して、すっかり気に入 ってしまった。

 今度はいつにしようかと思っていると、Tさんから、「西湖に行こうよ」と誘い を受けた。

西湖(さいこ)は富士五湖のひとつ。

精進湖(しょうじこ)や河口湖 (かわぐちこ)には数えきれないほど行っているのに、これまで西湖でヘラ釣りを したことがなかった。

Hさんも同行するというので、さっそくでかけることにした。
7月末のことである。

 早朝、 西湖の青木ヶ原ドライブインに行くと、 すでにHさんは到着していた。

「小山さんと伊東さんは、石切りの方面にボートで出ました。

釣況は芳しくなく、 苦戦するかもしれません」  という。

 わたしとTさんは、陸っぱりのできるポイントを求めて移動することにした。

根 場方面に行くと、ボート組のへら師が黒い溶岩帯をバックに、カラフルなパラソル を広げて、びっしりと並んでいる。

夏休みで、バス少年や若いグループが浜を埋め ていた。
風がさわやかだ。




 富士五湖は、昨年からずっと大減水に悩まされている。

湖面の面積が大きな西湖 はそれほど目立たないが、普段なら水没しているガレ場には、夏草が伸びている。

「もっと違うポイントを探そうか」  とTさんがいう。

結局われわれは「のどっ首」ポイントの、道路下に入ることに した。

急なガレ場をへら道具を担いで汗だくになって降りた。

大きなへらバッグは、 こんな釣りには不向きだ。

「水が澄み過ぎてるね」

と、Tさんが水面をのぞき込むように見つめている。

たしかに、ずっと奥の底ま で見通せるほど水が澄んでいる。

わたしは 19 尺を出して底釣りにした。

Tさんは 15 程度で宙釣り。

ダンゴやグルテンで底釣りをするのだが、いっこうにアタリは ない。

ときおり、ボートがのどっ首のくびられた狭い水路を移動していく。
みんな釣れ ていないようだ。



 正面対岸の溶岩帯の沖ブナイに入っているボートのへら師の竿が、午前9時過ぎ になったころ、ときおり立つようになった。

湖面を伝わってくる話声を聞いている と、どうやら長竿のオカメの釣りのようだ。

「撤収しようか」

 午前 11時近くになったとき、Tさんが言った。

これまで、われわれは 4時間以 上エサを打っているのに、一回もアタリがなかった。

「そうですね。まぁ、今回は水が澄み過ぎていたということにして、撤退しましょ う。精進湖に回ってみましょうか」

 と、意見が一致するや、われわれは大急ぎで道具をまとめて精進湖へと急いだ。





ベコ


 精進湖はさらに深刻な大減水に悩まされていた。

赤池のワンドはグランドのよう になり、その先は川状になっている。

 湖畔荘の先を回ると、陸っぱりにへら師がズラリと掛かっていた。

見ていると、 かなり竿を絞っている。

駐車場の前のコンクリート階段の近くに、どうやらわれわ れ2分だけ入れそうだ。

さっそく、両側のへら師に挨拶してTさんと入ることにし た。

 底は藻がはえていて、活性がありそうだ。

目の前に 10cm 前後のブルーギルの集 団が、こちら向きにじっと見つめている。

精進湖はブルーギルが大繁殖して、ヘラ 釣りのジャミとしてへら師を大いに悩ませているのだ。

 と、わずか数投でTさんの竿が曲がった。

いつものように、嬉しさをかみ殺して、 平然とした顔をしてへらを寄せている姿が楽しい。

13 尺程度で1本の両ダンゴだ という。



 わたしは 15 尺の底釣りだが、アタリがない。

そのうちに、Tさんが入れ掛かり の絶好調を迎えた。

 最近、Tさんはこのパターンが多い。

突然として、入れ掛かりを演じて周囲を驚 かす。

いや、普段の実力がどうとかではなくて、突如変身するのが不思議なのだ。

今回もまわりのへら師が驚いて見ている。

「ただね、問題があるんだ。この瞬間が 10分以上続かないこと」

と、竿を引っ張りながら、楽しそうに話す。

たしかにTさんの入れ掛かりは、突然やってきて、また突然パタリとやんでしまう。

見ていると、不思議なことに今回もそのパターンだった。

一時のフィーバーがあ っさりと覚めてしまったのである。

わたしは、相変わらず釣れない。
浅いタナの方がいいことは分かっていた。

だが、 放流モノが多く、型も 7、8 寸クラス。

底釣りで我慢すれば、少しは地ベラが混じ って型もいいかも知れないと、粘っているのだ。

そのうち、ポツポツと来たのだが、 浅いタナのへらと変わりはない。



4時間近く釣って、Tさんは数 10 枚。

わたしは 10 枚程度だった。

「いや、楽しかったね」

と、Tさんが会心の笑みを浮かべている。

超減水で、湖水の面積が減って魚影が 濃くなったのか。

または、このところの雨で、これでも増水をしていて活性が高か ったのか。

原因はよく分からない。

その日は山中湖の宿に泊まって、翌日は久しぶりの田貫湖に向かう。

著者
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 田貫湖は超満水。

朝方に雨が降って、まだ増水している。

キャンプ客が多く、湖 畔は子供たちで溢れていた。
われわれは、Hさんと 3 人で前岩方面に向かった。

 ここは駐車場から 300 m近く離れていて、釣り具を持って移動するのは大変だ。

すでに入っているへら師たちは、みんなキャリアを使っている。

それでも、夏の前 岩は釣れるポイントらしく、多くのへら師が入っていた。

 われわれは、前岩の先に入った。

湖岸は階段状になっていて、釣り台をセットす る場所は平坦だ。

雨上がりで、正面の特大の富士山は雲にすっぽりと隠れている。

左手のキャンプ場は、緑鮮やかな芝生が広がって、そこにカラフルなテントやター プが点在している。

子供たちの歓声が湖面を渡って聞こえてきた。

「うわぁ。きれいな場所ですね。なんかキャンプしたくなっちゃった」



 昨日合流した仕事仲間が、そのキャンプ場を見て言った。

満水状態で活性がいい のか、あちこちでもじりがある。

 さっそく、 15 尺1本半のタナで両ダンゴを試すと、数投からアタリがでて、30 分後に乗った。

型は 8 寸クラスなのに、糸鳴りを響かせて穂先が水面にささる。

両手でやりとりをして、コンディションのいいヘラがやってきた。

最大で尺 2 寸 ていど。

 Tさんは、13 尺程度の一本。
両ダンゴで好調だ。
例の恐怖の 10分間も再現してくれた。

段差のオカメでも、グルテンのセットでも、ヘラはよく反応している。

お 昼近くになって、ブラボー川上君が浮かない顔をして登場した。

朝、ここで待ち合 わせの予定だったのが、ようやく顔をだしたのだ。

それにしては元気がない。

「やられました。ハチに刺されたんですよ。いま全身が痺れています」

 と、太股を出して刺された場所を確かめている。

駐車場近くになって、車のなか に突然大きなハチが侵入したのだそうだ。

あわてて窓を大きく明けて追い出そうと したら、太股を襲われた。



 で、全身が痺れ出して、ろれつも回らなくなって、しばらく車でぐったりしてい たという。

それは大変だ。

事務所にいって手当をしてもらうように言った。

ここは キャンプ場だから、応急手当はできるだろう。

 ところが、あとで様子をみにいくと、川上君は車でようやく正気に戻っていた。

「事務所に行くと、『ここには、そんな危険なハチなどいない』
って言われまして ね。まったく、なんてことをいうんでしょうね。現実に刺されているのに」

 と、彼は憤懣やるかたない。
それでも、気力を振り絞って釣りをするという。

す でに 2時近くになっていた。

オカメの釣りをしたいと彼はいうので、いろいろと手 伝ってやった。

すると、わずかのエサ打ちでへらが乗った。

「おっ、どうしたんだ。すごい引きですよ」

 と、川上君は立ち上がって両手でやりとりしている。

8 寸クラスの型だったのだ が、パワフルな引きにびっくりしている。



 そのとき、突然土砂降りがわれわれを襲った。

それももの凄い雨だ。
パラソルの 下にじっと我慢している以外に動けない。

少し小止みになったときに、われわれは 撤収することにした。

川上君には残念な釣行だったが、再度挑戦すると彼はやる気 満々だ。







 気がついて、正面の山の端のシルエットの先の、ひときわ明るい星を探した。

さ っきまでそこにあった星がない。

ずっと右のあたりを探すとあった。
星がずいぶんと移動していたのだ。

 静かな湖面で、ときおりドッポンというもの凄いもじりがある。

相模湖の深夜は 明るい。
闇に目が慣れていて、かなり見渡せる。

遠くに湖面で明かりが小さくポッとともった。

ナイターのへら師がライトをつけて、仕掛けの確認をしているに違いない。

 いま、わたしは相模湖の青田沖のワンドに入っている。

ボートでのナイターの釣 りだ。

パソコン通信の仲間で、相模湖のナイターにハマっている大森英明さん(通 称・HIDEさん)の誘いを受けて、五宝亭からボートを出した。




 夕方、ミンミン蝉のが鳴き、ジージーとアブラ蝉が鳴き、カナカナとヒグラシが 鳴くなか、仕掛けをセットしてエサ打ちをはじめたのである。

「ミチイト 3 号。

ハリスは 2 号。

絶対に守ってくださいね」  と、大森さんの師匠格である三好雅夫さんは念を押す。

ハリも 16 号と親指より 大きい。

テント付きのボートを引き舟してもらって、それぞれがポイントに入った。

「今年は絶好調。 例年だと、年間に 10 枚も型物(42 cm以上)を上げる人は一 人くらいなので、すでに 10 枚以上の人は数人いるんですよ」

 と、出舟前に、常連客の近藤敏雄さんが説明してくれる。

近藤さん自身、すでに 14 枚の型物を釣って、ただいま五宝亭ではトップを走る凄腕だ。

「みんな通いつめているんだもの。ここの釣りを覚えると、もうほかには行けなく なっちゃうんだ」

 と、五宝亭の主人の五寶清一さんが、にこにこして言う。

 相模湖の超大型狙いの釣りは、まったく予想を外れた世界だ。

テント付きのボー トというものが、ほかの釣り場にはない。

ここに家財道具一切を積み込んで、一週 間以上寝泊まりするへら師もいる。




大森さんも、すでに 5日目に突入。
三好さんは 1 週間。

近藤さんは、朝になる と自宅に戻って仕事をして、夕方またやってくるというサイクルだ。

巨べらに魅せ られて、夏になると仙台から必ずやってくるというへら師にも出会った。

 夜、電気ウキがしきりに流れた。

どうやら、ダムの水を落としているようだ。

1 時間の仮眠をとった以外、ずっとウキを見つめていたのだが、とうとうアタリすら なく朝を迎えてしまった。

 すると周囲は迫力いっぱいのもじりの饗宴。

まるで、コイかと思うが、みんなへ らだ。

そのときに、ウキに待望のアタリがあって、9 寸クラスが 3 枚続いた。

 だが、恋焦がれた型物は、その雰囲気をプンプン匂わせはしたが、とうとう姿を 見せなかった。

こんなに簡単に会えてしまってはダメだ。

自分に言い聞かせるよう にして、竿を納めたのだが、ほかの常連へら師たちも、今回は全滅のようだ。




「前日には型物がでたから、いけると思ったけどね。まぁ、しゃ〜ないね」

 と、大森さんたちはいたって陽気だ。

真剣に釣りはするが、釣果は運しだい。

そ の大らかな釣りにすっかり魅せられてしまっている。

「まぁ、長期のキャンプをしたと思えば、楽しいものですよ」  と、三好さんが笑う。

今日、彼は夏休みのキャンプを終えて、一週間ぶりに自宅 に帰る。

「樋口さんも、このままじゃ済まないでしょう。また来て下さい」

 と、近藤さんがまぜっ返す。

陽気な相模湖のナイターへら師たちとの一晩の勝負 だった。

帰りは自宅まで40分。

いつでも行けそうな相模湖である。    (了)





◆五宝亭 TEL0426-84-2256





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