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手作り・・矢竹の竿掛け
                          著者 樋口正博 Joe's(ジョー)


はじめに
 先日、江戸の竿師に1日入門をしてきました。
テーマは「竿掛け」です。

1 本半の竿掛けの行程を学ぶというものでした。
詳しくは「月刊へら」に掲載さ れますが、竹にまつわるいろんな興味深いことも聞きましたので、ここに連載 の形式で報告したいと思います。

すでに北の国では冬の真っ盛り。
竿を握るのは来春までと、ちょっと辛い冬 眠生活だと思います。

代わりといってはなんですが、この冬に、みなさん手作 りのへら道具に挑戦してみませんか。

たとえ、不細工な出来でもいいじゃあり ませんか。
自分が愛着を持って使う道具なのですから。

と、いうことで、波紋のメンバーのなかにも手作りの名手がたくさんいらっ しゃいますが、まぁ、Joe's(ジョー)はその話題提供ということで、この連載が 楽しい手作り道具の歓談の場になれば幸いです。

竹の扱い方には、地方独特のやり方が存在しています。
とくに火入れの方法 はみんな違います。

「ちょっと違うんじゃない」
とお感じになることもあると 思いますが、まぁ、余興だと思ってお付き合い下さい。
また、これをきっかけ に、さまざまな意見が出ますことを楽しみにしています。
では、体力と時間が 続く限り、書きたいと思います。

まず最初は竹の選び方から。
次のアーティクルにて、コメントリンクの形で 登場します。



矢竹の竿掛け
 竹の道具というのは、なんと美しいものでしょう。

まっすぐに延びた竹が漆 で飴色に輝いています。

口巻きには、これまた飴色になった繊細な藤が幾重に も巻かれています。

その下地になる黒い漆塗り。

精緻にこしらえた印籠継ぎ。

 これは1本半(約120cmと60cmの2本継ぎ)の矢竹を使った竿掛けです。

 職人の竿師の作ったこうした竿掛けには、和竿と同じ様な値段が付けられて います。

ただ、ため息がでるばかり。
そこで、初めて竹を使って、初心者でも なんとか完成できる竿掛けの工程を教えてもらうことにしました。

教えてくれ たのは、江戸前の竿師、水虎(スイコ)さんこと、小瀬和夫さん。

 小瀬さんは、埼玉県伊奈町で「和竿クリニック 水虎」という、手作り道具 の店と教室を開いています。



彼は江戸前の竿師のもとで修行を積み、さらに紀州の竿師との交流も深く、もちろん現代関東では先端を走る親方(竿春)一門とも親しい間柄です。

どうやら彼は、黙々と竿を作る職人的な竿師の世界にあき足らず、その竿作りの技術を多くのへら師たちに広めることに情熱を傾けているようです。

無口で職人肌の多い竿師のなかにあって、彼は腕と話の両方ができる貴重な存在で、手作りの和竿作りをしている全国のへら師が、わざわざその教えを受けにお店にやってくるほどです。

 今回は、小瀬さんの教える手作りのへら道具の世界を、なるべく分かりやす く文章にしたいと思います。

とはいえ、図解しないと理解できない点も多く、 また読み手の方にも多少の知識を必要とします。

その辺は、ご容赦ください。






(1)矢竹を選択する

「へら道具の素材として、矢の(矢竹)ほどすぐれている竹はありません。
節 くれだっていなくて、まっすぐで姿が美しい。気品のある竹です」

と、小瀬さんがいうように、矢竹はへらの竿はもちろん、竿掛け、玉の柄な どには欠かせない竹です。

その矢竹を使った1本半の竿掛け作りが始まりまし た。

といっても、Joe's(ジョー)がすべて一人で作るには、未熟な上に時間がか かってしまいます。

所どころの工程をJoe's(ジョー)が実習して感想を述べるほ かは、小瀬さんに解説してもらいながら、話を進めていきます。

 まず、竹選び。

小瀬さんの店には、無数の束になった矢竹があります。

すべ て、小瀬さんみずからが山に行って切ってきたものです。

矢竹は小節のテーパ ーのきついものから、曲がりのないまっすくなものまで、さまざまな用途に使 えるように集めてありました。



「竹を採る時期は秋から冬にかけて。この時期、わたしは全国を走り回ってい ます。
山主の了解を得て、1年分の竹を揃えるためにね」

と、小瀬さん。
小瀬さんの竹採りは年期が入っています。

ただ闇雲には走り 回らない。

どの場所に行けば、どんな竹があるかがすべて分かっています。

初 めての場所に行くときには、まず地図のほかに地質図を綿密に検討します。

「いい矢竹は、城下町にあります。
昔は矢に使うために、城下町の郊外に矢竹 を植えたからです。
それから、地質的には古生層の地質に育った矢竹が一番で す」

矢竹は日本全国に、ごく当たり前に自生しています。
でも、へら道具に使え る矢竹となると、なかなかいい竹はありません。

小瀬さんは、こうしたいい竹 のことを
「器量のいい竹」といいます。

器量のいい竹はかたまって自生してい ます。
だから、その群れを探すのが一番です。



 結局、「地質の古さからいっても、矢竹は西日本に限る」ということらしい のです。

へら師が絶賛する小節の矢竹は、さらに自生地が限られてしまいます。

小節の竹は日当たりと水はけがよい場所に自生します。

こうした土地は宅地と しても一等地で、年々伐採されて宅地に変身しているからだと小瀬さんは言い ます。

 ともかく、元が同じ太さの2本の小節の矢竹を用意します。
節の間隔も2本 とも同じ竹にします。

1本の竹から1本半の竿掛けを作るのではありません。

2本の同じ竹から1本半の竿掛けを作るのです。
こうした作業を「生地合わせ」 といいます。

 これは、ちょっと贅沢です。

というのも、半分だけしか使わない竹では、残 りの多くがムダになってしまうからです。

たとえムダでも、2本の竹にしない と、どうしても仕上がりのバランスが崩れてしまいます。

 和竿に使う矢竹は、伐採してから2、3年乾燥させたあとで使います。
十分 に乾燥しないと竹が狂ってくるからです。

でも、竿掛けは竿のように調子とい ったものはあまり関係ありませんから、1年くらい乾燥したものでも結構です。



使う竹も2年くらいの若い竹でも十分です。

あまり若い竹(新子)は、火入れ のときに苦労します。

新子は焦げるのが早く、しわが出やすいので、火入れに は力量が必要です。

さて、2本の乾燥した矢竹を選び出しました。

これから、竹作りのハイライ ト、火入れの工程に入ります。

すでに、カンテキ(竹を熱して柔らかくする専 用の七輪)には備長炭が真っ赤におこっています。

さて、緊張の火入れです。

いまでこそ知ったかぶりをして、火入れなんて言 っていますが、最初はいったいどういう工程なのか、まったく想像もできませ んでした。

どうやら、竹を火であぶって、まっすぐにする工程のようだと考え ていました。

 ともかく、私は実際に火入れの工程を体験できるとは思わなかったので、カ ンテキを見てちょっと感激してしまいました。

カンテキ。

これは、竹の火入れ のために改良された専用の七輪です。

考案者は孤舟。



 孤舟はオリジナリティ豊かな紀州の竿師でした。

次々と和竿に新しい創意工 夫を盛り込んで行きました。

現在のヘラ竿の原形を孤舟が作り出したというの は、業界でも一致した意見です。

和竿独特の美しさをもつ段巻き。

これまで口 巻き(竿の両端を補強して漆の塗りをかけこもの)が主流だった和竿に、各節 を漆で塗りながら補強する手法をあみ出したのも孤舟でした。

孤舟は、この手 法を横笛からヒントを得たといいます。

カンテキは、まことによく考えられています。
原形は七輪ですが、兜と呼ばれるお椀型のトップに工夫が凝らされていました。

火力を逃がさずに、竿の当 たる部分に集中するような形状になっています。

といっても、あまり火力が強 いと竹が焦げてしまいます。

 そして内部全体の空気を熱するように、ドームのような空間を確保していま す。

兜は火力を調節しながら適切な炎を集めるように、その微妙な調節を行な う同時に、ドーム全体の空気を余熱で熱して、木炭の炎が竿全体にまんべんな く伝わるような工夫がされています。



「孤舟なくして、いまの和竿作りはありえませんでした。

しかも、かれは自分 の工夫した技や道具を仲間の竿師に惜し気もなく広めたんですよ。

もし、この カンテキや段巻きの手法が秘密だったり、パテントが掛かっていたら、ヘラ竿 はもうなくなっていたかもしれません」  と、小瀬さん。

亡き孤舟の偉大な業績は、私にはまだ充分に分かっていなま せん。

ともかく、孤舟の名前は竿師にとっては特別なのだと思いました。

 さて火入れに入ります。

その前に、小瀬さんは「節抜きをします」と、直径5ミリ程度の鉄の棒をなにやらモーターのようなものにセットしました。

節を抜くための錐です。

先端が錐状になっていて、モーターにセットすると回転し て竹の節を簡単に抜いてくれます。

 専用モーターは自作。

もしなかった場合は、手で慎重に抜いていくことにな ります。

こうしたモーターも専用錐も、みんな道具として「水虎」で販売して いました。



「古竹(コチク)は節を抜かないんです。それと紀州の竿師も節を抜きません。
節 を抜くのは関東の竿師です」

 と、小瀬さんはいいます。
ついでに、こうもいいました。

「火入れというのは、紀州と関東とはかなり違います。
関東は強い火で一気に 火入れをします。
まさに一発勝負。

紀州はそれほど強くない火で何回も火入れ をしていきます。
両方の火入れの技量をみると、やはり関東の竿師の方が一枚 上手だと思います」

誤解のないように。
小瀬さんは火入れの優劣を言っているのではないのです。

それはこういうことです。

いまでは紀州が和竿の里になっていますが、紀州の 歴史はそれほど長いものではありません。

戦後のことだと思います。

一方、関 東には関東の和竿作りの歴史が江戸時代からありました。

おもに、渓流竿、て んから竿、そしてハゼ竿、舟竿など、さまざまな竿を作ってきたのでした。

 その関東流の火入れというのは、コークスなどを混ぜた強い火力で一気に決 めるという真剣勝負のようなものでした。

そのために、手直しの効かない火入 れ方法だったのです。



とくに、1年ちょっとの若い竹の火入れは、きわめて難 しいそうです。
また節を抜いておかないと、若い竹は膨張してパンクしてしま うからです。

あまりあぶっているとすぐに焦げ付いてしまいます。
そのために、 節抜きをして一気に勝負をかけたのです。

 こうした方法は関東独特なもので、紀州の竿師はほとんど節を抜かずに火入 れを行なっています。

その代わり、紀州は和竿の材料の宝庫でした。
高野竹は 関東にもありますが、紀州が一番。
炭はやはり紀州の備長炭に優るものはあり ません。

こうした素材の豊富な紀州で和竿作りが盛んになったのもなるほどと 思います。

 まず、小瀬さんがお手本を見せてくれました。

右手で鉛筆を握るように竹を もって、カンテキの兜の上に滑らせて、くるくると回しながら前後にも移動し ます。
一時もこの前後左右の動きは止まりません。

 ある程度竹を熱していると、竹の表面から脂が出てきます。
これを丹念にタ オルで拭き取りながら、竹の全体を暖めます。

この手順は手前の太い部分から 先に向かって少しづづ暖めては脂を拭き取って行くのです。



 さて、いよいよ竹の曲がりを直す火入れです。
小瀬さんは左手に矯め木を持 ちます。

これは拍子木のようなもので、幅4cm程度のに切れ込みが斜めに入っ ています。

右手で竹を熱しながら、頃合を見計らって矯め木に竹を当てて、左 手で竹と矯め木を絞るようにして曲がりを矯正して行きます。

見ていると、本 当に簡単そうです。
次々と竹がまっすぐに矯正されていきます。

「じゃ、樋口さん。やってみますか」

 と、にこにこして小瀬さんが熱くなった竹と矯め木を渡してくれました。

い よいよ、火入れが体験できるのです。
私は緊張しました。
まず、あぶり過ぎて矢竹を焦がしてはいけない。

そうい う思いがありましたから、チビチビとあぶってしまいます。

そして、やおら矯 め木に当てて曲がりを直そうとして、途方にくれてしまいました。

「どこを曲げたらいいんですか?」



 みなさんは、竹の曲がりというものは、どういうものだと思いますか?

私 は、竹全体が湾曲していて、それを少しづつ矯正していくのが火入れだと思っ ていました。

ところが、肝心の矢竹は「最初からまっすぐだったぁ」。

「曲がりなどありませんね?」

 と、私は熱くなった竹を、元から先の方に一直線にして片目をつぶりながら 眺めなて小瀬さんに聞きました。

「竹全体が曲がっているわけがありません。
そんな竹は端から使いませんよ。
よく見てください。節と節の間を。

それぞれ膨らみがあるでしょう。
その膨らみが左右に波打っていませんか? 火入れとは、この波を矯正することなんで す。
節を曲げるのではありません」

なるほど。そういうことでしたか。
節が曲がるほどの竹は素材にならない。

節と節の中間のふくらんだ部分を芯を通したようにまっすぐにする。
それが火 入れだったのです。



それは分かりましたが、どうも矯め木に当てて絞るときに 大変な力がいります。

顔を真っ赤にして頑張りました。

「樋口さん。力を入れても曲がりません。
あぶりが足りないんだもの」

 と、小瀬さん。

焦がしちゃいけないという心配から、ちびちびとあぶってい たのがよくなかったようです。 「男なら度胸を据えて、スパッと加熱してみなさい」

 と、小瀬さんはいいます。

そこで思い切って、強めにあぶってみました。

竹 の先からシューシューと蒸気のようなものが吹きだしてきました。

そこで、思 い切って、矯め木を当ててみると、あんなに硬かった竹がぐにゃりと曲がるよ うな感触です。

ここで、また収拾がつかなくなってしまいました。

「曲げる場所がわかりません!」



 波になった膨らみをまっすぐにするといっても、波だらけだし、どこにセン ターを通して矯正して行っていいのか、まったく分かりません。

小瀬さんによ ると、プロは竹を前後左右にくるくる回しながらカンテキで竹をあぶっている ときに、すでに次に曲げるポイントを決めているのだそうです。

「だって、火から竹を降ろして矯め木を当てながら場所を決めていたのでは、 竹は冷めてしまいます。
どこと、どこをあぶって矯め木をどう当てるかは、前 もって確認しておくんですよ」

 これは、素人さんにはとっても難しい。
ほとんど分からない。

仕方なく、小 瀬さんが鉛筆で曲げる場所に印を付けてくれました。

それでも、火の加減、矯 め木の力の入れ具合など、やるべきことがたくさんあってパニックです。

竿師 が一番神経を使う火入れ、初心者の手におえるわけがありません。

一応の工程 を体験したあと、小瀬さんに仕上げをやってもらうことにしました。

「おうおう、まったくバラバラになっちゃったね」 「……!」  こうして、私の火入れ体験は終わりました。

火と竹との勝負は私の完敗です。



「火を恐がるな」「火と闘え」「火を作り出せ」と、さまざまなアドバイスが 飛びましたが、夢中になってやっていた私には、まったく通用しませんでした。

10年とはいいませんが、3年くらいは掛かりそうです。

火入れをまがりなりに もやれるようになるには。

 火入れは熟練を要します。

それでも、竹作りのハイライトですから、じっく りとマスターするのも楽しいでしょう。

カンテキですが、サンマを焼く七輪で も代用できます。

七輪(1,500円程度)を用意して、兜の代わりに耐火レンガ を4本#型に組みます。

炭をおこして、この耐火レンガの間隔で火力を調節し ます。

矯め木は自作して下さい。
材料の木は硬さと粘りのある桜材などが最適です。

 この工程が難しい方は、火入れの完了した竹が釣り道具店にありますから、 これを利用しましょう。

1本3,000くらいからあると思います。

これなら、作 業は簡単です。

 ということで、次回は口巻きと藤巻きです。



 ながらくお待たせしました。

「矢竹の竿掛け」も、いよいよ最終段階になり ました。

 野生児そのままだった矢竹が、火入れを体験してまっすぐな性格をもった素 晴らしい青年に成長しました。

あとは新品のスーツを新調すれば、これで立派 に社会人として旅立つことができます。

最終回は、矢竹に口巻きと藤巻きを施 しましょう。

今回作った竿掛けは、1本半という寸法です。

つまり、90cmと45cmの2本継 ぎの構造になっています。

10尺前後の短竿を使うときには、手元の90cmだけを 使います。

15尺から先の長い竿を使うときには、安定をよくするために2本継 ぎにして使います。

 口巻きというのは、竹の小口に絹糸を巻いて、割れなどが起きないように補 強をする作業です。

竹は小口が一番弱い部分です。

とくに内側を削って内径を 揃えた場合などは、さらに弱くなります。



 そこで小口に約13cmくらいに渡って、隙間なく糸を巻き付けて補強をします。

使う糸は絹糸の2番。

かなり細い糸で、できたら撚りのない絹糸がベストです。
でも、こうした絹糸(業界ではハブ糸と呼んでいます。
羽二重に使う糸なので ハブ糸)はなかなか手に入りません。

 大きな手芸店には100番か50番のハブ糸があります。
これでも充分です。
小 瀬さんは代用品として、ポリエステル100%の50番のミシン糸でも大丈夫だと いいます。

通常は白い糸ですが、小瀬さんはこの上に黒の漆を塗ることを考え て、黒が赤の糸を使っています。
どちらでもいいと思います。

 糸は竹の細い部分から太い部分へと巻いて行きます。

逆だと滑って、糸と糸 の隙間ができてしまうことがあります。

さらに食いつきをよくするために、糸 を巻く竹の部分にはサンドペーパーをかけて荒らしておきましょう。

 慎重にじっくりと隙間なく糸を巻いていきます。
巻き始めの糸の先端は黄色 いケースのアロンアルファで接着して止めます。

アロンアルファには黄色いケ ースのと緑のケースのがありますが、ここでは黄色いケースを使います。

こち らは硬化する時間が少しかかるので、あらかじめプラスチックの板などに、少 し垂らしておいて、必要になったときに楊枝などの先に付けて使います。



くるくると巻いていって、おしまいもアロンアルファを一滴つけて止めます。
途中で隙間ができてしまったら、爪で寄せてぴったりときっちりと巻いていき ます。

 つぎに黒の漆を塗ります。
プロは本漆を使いますが、アマチュアは新うるし (カシュー)を使いましょう。

漆だけはアマチュアには難しいからです。
かぶ れましすね。
本漆を触った手でおしっこすると、大切なところも立派にかぶれ て腫れ上がったりします。

通常より立派になって、もの凄い快感だそうです。
ってのは冗談。

かゆくて、かきむしって、気が狂いそうだそうです。

では、プロの竿師がなぜかぶれないかというと、免疫ができているからです。
それでも1年という時間が必要です。

使い続けていないと、プロでもかぶれて しまいます。

 漆というのは不思議な物質で、日本人が発見考案したハイテク素材といって いいでしょうね。

英語で漆のことをジャパンというのはご存知の通りです。

は るか縄文時代に、すでに漆を塗った櫛が発掘されています。



 漆は湿気のある場所におくと乾燥するという、不思議な性質を持っています。
ですから竿師は、乾燥場である室(むろ)を用意しているわけです。

そしてい ったん乾燥してしまうと、漆はセラミックのようにきわめて固い物質になりま す。

硬質ですが、生きて呼吸をしています。
そして年数がたつと、漆は美しい 飴色に変化していきます。

 本漆にはかないませんが、カシューでも同じような効果があります。

そして、こちらはオチンチンをブンブンにさせる心配はないので、アマチュアはカシュ ーを使いましょう。
釣り具店で、チューブ入り(各色あって、300円くらい から)で売っています。

同じ黒でもつや消しの黒がありますので、つや消しで はない黒を使います。

 専用うすめ液で薄めた黒のカシューを、糸巻きした部分に筆で塗るのですが、 その前に糸巻きをした部分と巻いてない竹の部分を奇麗に塗り分けるために、 マスキングテープをあらかじめ巻いておきましょう。



 筆で3〜4回塗ると、下地の糸目が見えなくなります。
そしたら、いったん 乾燥させます。
マスキングテープは剥がしておきます。

乾燥には1、2日かか るでしょう。
乾いたら、400番の耐水ペーパーで水研ぎをします。

このときカ シューを塗ってない竹の肌を傷めないように、ふたたびマスキングテープを巻 いておきます。

 こうして最後の塗りを終えて乾燥すれば、口巻きの完成です。
1本半の竿掛 けですから2本の両端、計4ヶ所に口巻きを施します。

口巻きのあとは藤巻きに入ります。
これは口巻きした部分にさらに藤を巻く 作業です。

藤巻きは補強の意味もありますが、いまでは装飾的な意味合いの方 が強いでしょう。
たしかに、緻密に巻かれた藤巻きは、うっとりするくらい美 しいものです。
ぜひ藤巻きをしましょう。

藤というのは、藤家具などに使われるラタンのことです。

藤を細く割いて作 ります。
これは職人の技で、細い藤ほど値段が高くなります。

同じ藤でも値段 に違いがありますが、それは職人技への報酬です。



素晴らしい藤は京都の職人 さんの作る藤だと、小瀬さんがいいます。

京には藤を使った手仕事の伝統があ るからです。

 藤はかなり高価なものです。
釣り具店にもありますが、慎重に選びましょう。

そして、なるべく細い藤を使いましょう。
細い藤だと仕上げが繊細になって、 美しさの度合いに差が出てきます。

 藤巻きは、下地となる黒く漆を塗った部分を2cmほど残したところから巻き 始めます。

つまり、黒の漆を美しさをチラリと見せるわけです。

2cmというのは全長13cmの黒漆の長さに見合う幅のことです。

漆を塗った部分の長さが違ったら、またこの残す長さも違ってきます。

バランスを確かめて残す長さを決めて下さい。

 藤は先端を斜めにカットして、ハサミの刃の峰でしごいて湾曲させます。

そ してアロンアルファを先端につけて密着させてから巻き始めます。

最初にしっ かりと接着したなら、あとは簡単です。

終わりも斜めにカットして接着剤で固 定して終わりです。



 最後の仕上げになりました。

巻いた藤の上にふたたび黒の漆を塗ります。

2 cm残した下地の漆と竹の地肌の境目にマスキングテープを巻きます。

そして、 口巻きの部分に漆を塗っていきます。
藤の地肌が隠れたらおしまい。

 漆が乾燥した後に、水ペーパーで砥ぎだします。

すると藤の山の表面が露出 して、谷になった部分は黒く漆が残ります。

すると、藤と漆の美しい縞模様が できあがります。

これで完成ですが、このペーパーによる研ぎだしをすると、 どうしても藤の表皮を削ってしまいます。

 そこで、小瀬さんは独自の方法を開発しました。

それは、漆を塗ったあとの 研ぎだしをやめて、巻いた藤と藤の間に黒いナイロン糸を巻く方法を考えたの です。

これだと、藤の表皮を削ることもなく、すっきりと藤の隙間に黒い縞模 様を出すことができます。

 このときに使う黒のナイロン糸ですが、小瀬さんは「東洋ナイロン(株)」 の4号糸を使っていました。

このナイロン糸は、釣り具店の海釣りコーナーで 手に入ります。
もちろん黒い色のナイロン糸です。



 これで、竿掛け作りのすべてが終わりました。
あとは、仕上げの塗りです。

プロの竿師はここでも漆を使います。
でも、アマチュアは代用としてカシュー の透を使います。

でも、今回は水に濡れることがある竿掛けですから、防水効 果も考えてウレタン塗装にします。

 ウレタンははがれやすい塗料です。
そこで食いつきをよくするために、竿掛 けの表面に歯磨き粉の「ZACT」を布につけて荒らします。

ZACTはそれ だけ研磨効果が高い歯磨き粉です。
歯磨きのときにはご注意を。

 さて、ウレタンはシンナーで6倍程度に薄めます。
ちょっともったいないと 思っても、たっぷり容器に用意して下さい。

これを塗る道具として女性のパン ティストッキングが活躍します。

1足分を用意してください。
それに使い捨て の台所用の手袋も必要です。

まず手袋をして、パンストをウレタン液にジャブジャブと漬けます。

そして、 竿掛けをパンストで握るようにして一気にしごきます。

これで終わり。
びしょ びしょにパンストを浸すというのがコツです。



 ウレタンを2日かけて乾かして、ふたたび塗り重ねます。

同じ作業を3回重 ねて完了。

ウレタンというのは透明ですが、塗ってみるとなんとなく、人工的 な色合いになってしまいます。

あの漆の透のように、美しい飴色になりません。

飴色を出すには、ウレタンに少量の色つきカシューを混ぜると飴色になります。

その色合いは、みなさんで試行錯誤してさがしてみてください。

これで、あなただけの竿掛けができました。

大変に価値のある一本です。

だって、だれにもマネのできない時間と情熱をかけた、手作りの竿掛けですから。
ぜひ、お試し下さい。

これでおしまいです。
でも、最後に2本継ぎの竿掛けの繋ぎの部分。

つまり 印籠継ぎのやり方をまだ紹介してありませんでした。

この方法は、やり方さえ 知っていればそれほど難しくはありません。

でも、やり方を知らないで、見よ う見まねでやりますと、込み口を合わせることがとても難しい作業です。

 印籠継ぎという技法は、古くから江戸前の職人の間で伝わってきました。



たとえば、タナゴ竿というのは、1本が15cmくらいの竹を何本も継いで使います。

そのときの継ぎ方に印籠継ぎが登場します。

本編の別冊として、文章を別にし て印籠継ぎを紹介します。

 印籠継ぎは、仕上げの塗りも終わった最終段階で行います。

これが終わった なら、本当に完成です。

これで本当におしまいです。

最後は、印籠継ぎの技法です。

印籠継ぎという竿の繋ぎ方を、みなさんはご存知かと思います。

印籠継ぎと いうのは、印籠のフタの繋ぎ方からきたと思います。
はっきりしませんが。
印 籠は薬などをいれる小さな携帯容器で、根付けを付けて腰に下げて用いました。

 水戸のご老公様の

「控えおろう。この印籠が、目に入らないかッ。」という、 あの印籠です。

印籠は江戸時代中期から盛んになって、幕末まで主として武士 の腰に下げる装飾品として愛用されました。



 愛用品ですから、それは凝ったものが作られました。

とうとう器は漆器にな って、人物や動植物、風景などの蒔絵がほどこされて、江戸時代後期の名だた る蒔絵師がこぞって印籠を手掛けたといいます。

「印籠作家」という言葉もあ るほどです。

印籠は江戸を代表する工芸品だったのですね。

 さて、その印籠のフタの構造ですが、オス側が本体、そしてメス側がフタと なります。

本体の内側に一回り小さな突起物をつけます。

その突起物に合うサイズのメス型のフタを作って、両者がぴったり合うように作ったのが印籠継ぎです。

ですから、印籠継ぎはぴったり合わさると、外観からはその合わせ目が 分からないほどです。

そこに職人技が発揮されるのです。

 オス側の突起物を作るために、オス側の中に埋めこむ10cmくらいの矢竹を用 意します。

これは丸棒ではダメです。
必ず矢竹にしてください。

10cmの繋ぎに 使う矢竹は、太い方の外径がオス側(つまり、手元に使う半本分の竿掛けの先) の内径よりも、わずかに太いものを選びます。



 10cmの竹は中空ですから、内径に合わせて細い竹を重ねて空間を埋めます。

これは3重4重になって、小口が大変に美しくなります。

これができなかった ら、竹の内径に合わせて丸い棒を詰めてもいいでしょう。

 この矢竹は当然のことながら、テーパーがありますから、半本の竿掛けのオ ス側に埋まった先は、相手の1本の竿掛けの内径よりは細くなります。

これで 自然とぴったりと合うことになります。

10cmの矢竹を選んだら、オス側の竿掛けの内径に合うように削る作業に入り ます。

これが江戸前の技法になります。

繋ぎの竹は、オス側の内径に約3cm程 度ぴっちりとはまるように調整します。

これが難しい。
少しでも狂うと、竿掛 けの小口がガタついて損傷してしまうからです。

小瀬さんは、まずオス側に入る3cm分を計って、大まかにナイフで周囲を削 りました。

そのあと、オス側に入る3cmの部分に、縦に鉛筆で一本の線を引き ました。

そして竿掛けの口に押し込んで1回転ひねったのです。



 オス側から竹を外すと、10cmの竹には竿掛けの内径に当たった部分(突起し ている部分)に黒く鉛筆の粉がつきました。
これを目安に鉛筆の跡だけをナイ フで削ります。

そして、また鉛筆で縦に一本線を引いてマークを付け、また竿 掛けに差し込んで1回転ひねります。

 これを繰り返すと、3cmあった竹の埋めこむ部分が、徐々に竿掛けのオス側 に入っていって真円に調整できます。

こうして、印籠継ぎの繋ぎをする竹の元 を竿掛けにぴっちりと埋めこむことができます。

こうして繋ぎの竹(突起物)を作ることができて完成です。

あとは、繋ぎの矢竹の部分に慎重に漆(カシューの透)を塗り重ねておわりです。

カシューを塗るのですから、外径が多少太くなりました。

でも、竿掛けの印籠継ぎはぴっ ちりするよりも、多少繋ぎめがきつく、残った(1cmくらい)方がいいでしょ う。

ゆるゆるで使いものにならないよりは。

 これで、人前に出しても恥ずかしくない竿掛けができました。

釣友に自慢し てもいい出来ばえだと思います。




 材料の矢竹ですが、みなさんの住んでいる所を探せばあると思います。

矢竹 というのはかなりありふれた竹ですから。

外径15mmくらいの矢竹が竿掛けに最 適です。

水分が枯れた冬に取るのがいいですね。

まだ間に合います。

 では、これにて。

                    (おしまい)

著者
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